「目標は自主映画づくり~自分の演技を通じ、発達・身体両方の障害をリアルに伝えたい~」(前編)愛澤咲月さん

愛澤咲月さん(右)とLASS共同代表emo。今回はWIRED CAFE 梅田NUchayamachi店で撮影。テラス席は特に見晴らしが良い。

愛澤咲月さん(右)とLASS共同代表emo。今回はWIRED CAFE 梅田NUchayamachi店で撮影。テラス席は特に見晴らしが良い。

脳性まひに加え、2年前にADHD、LD(学習障害)と診断された愛澤さん。高校生時代の学園祭で「演技の楽しさ」に目覚め、社会人を経て再び舞台演技の世界に挑戦した彼女は、現在どのような目標を抱いているのでしょうか。

今回は対談形式でお送りします。前編では主に、学生から社会人における、発達凸凹での困りごとについて聞いてみました。

■発達障害じゃないと証明するために受診

―愛澤さんの発達障害の具体的な診断名は何ですか?また、診断を受けに行ったきっかけは何でしたか?

愛澤咲月さん(以下、愛澤さん):2年前に病院でADHDと、空間認知が顕著に弱いLDと診断されました。バリバラ!(NHKの番組)に出演したことで知り合った発達障害の方々に「さっちゃんも仲間やわ」と言われ、「自分は絶対発達障害じゃない!」と証明するために2年前に病院へ受診しに行ったのです(笑)。WAIS-Ⅲ※の検査を受けたら、見事発達障害の診断が下りました。

―そうなんですね(笑)。絶対違うと思われていた理由はありますか?

愛澤さん:周りから「発達障害じゃないか」と指摘された部分は、自分の性格から来るものに過ぎないと思っていました。また、脚が悪いだけで十分と思っていたので、それ以外の障害があるということを最初は受け入れませんでした。

―WAIS-Ⅲ※で特に苦手だった項目は覚えていますか?

愛澤さん:絵を見て間違い探しをするのが(検査名:絵画完成)が10問中1問も分からなかったです。空間認知について検査する、積み木(検査名:積木模様)もダメでしたね。逆にバラバラの四コマ漫画を並べる(検査名:絵画配列)ものは全て正解して、推論が得意だと言われました。

※WAIS(ウェイス)、正式名称ウェクスラー成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale)は、16歳から89歳の方を対象に実施できる知能検査です。
WAIS‐III(改訂第3版)では、新しい下位検査3つ(行列推理、記号探し、語音整列)が加わり、7動作性検査(絵画完成、符号、積木模様、行列推理、絵画配列、記号探し、組合せ)と7言語性検査(単語、類似、算数、数唱、知識、理解、語音整列)の、計14下位検査で構成されます。

言語性IQ、動作性IQ、全検査IQの3つのIQに加え、新たに4つの群指数(言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速度)も測定でき、一層多面的な把握や解釈が可能になりました。(その他改良点有り) 参考URL:http://www.nichibun.co.jp/kobetsu/kensa/wais3.html

 

■遅刻の原因は脚だけではなかった

―小学生、中学生の頃は愛澤さん自身どのような性格でしたか?

愛澤さん:小学生の頃は、毎日遅刻していましたね。通学途中にチャイムが鳴るっていう(笑)。母に何回催促されても治らないので、よく叱られていましたね。

性格は明るかったのですが、大勢の中では、決まって「大人しい、人見知りだね」と言われました。本当は、みんなが喋っている輪の中への入っていき方が分からなかっただけなんですけどね。中学生になってからは引きこもっていました。

―遅刻は、発達凸凹特有の時間逆算の苦手さも関係していそうですか?

愛澤さん:そうですね。逆算ができないことも大きな原因だったんですけど、脳性まひで脚が悪いからって、周りには全部許されていた部分がありましたね。忘れ物も多かったのですが、友達や先生がついてくれていて周りのフォローがあったので、発達凸凹の凹の部分は目立たなかったと思います。

―大勢の中で大人しかったのは、複数の会話が苦手という特性からですか?

愛澤さん:はい。3人を超えると、会話のキャッチボールの仕方が分からなくなってしまうんです。当時からそういう特性が出ていたのだと思います。

―引っ込み思案だと言われてどう思いました?

愛澤さん:そうじゃない気もするけれど、大勢の中で喋らない自分も事実だなぁと納得していました。その分、明るいリーダータイプの子が羨ましかったです。

―どういうところに憧れていましたか?

愛澤さん:明るくて、その子がいるだけで周りの人が集まってくるところですね。いつかああなりたいなって。何かやろうよ、ここに行こうって、自分から意見できるのが羨ましかったです。

■自分を受け入れ始めてからの変化

―そこから高校生になられて、大きな性格の変化はありましたか?

愛澤さん:特別支援の高等学校に進学し、様々な障害を持った方と一緒に過ごす中で、自然と自分を受け入れられるようになりましたね。また、中学生の頃、「自分にとって恋愛は無縁だ」と感じていましたが、高校生では好きな人が出来たり、お付き合いをしたりし、「脚が悪くても恋愛していいんだな」って思えました。学校へも毎日行くようになり、進路も前向きに考え始めていました。

―進路はどういう風に決めましたか?

愛澤さん:病院で医療事務として働きたかったので、医療事務を学べる専門学校を選びました。

―専門学校では発達凸凹での困り感はありますか??

愛澤さん:友達がなかなか出来なかったですね。脚悪いせいだと思っていたけれど、発達凸凹が原因かなと思います。友達が皆で喋っている時に自分から声をかけられず孤立し、教室の移動では一人ぼっちになっていました。

■積み重なる就職後の苦悩~曖昧な指示、長期的な計画、方向感覚の困りごと~

―専門学校を卒業されて、どのような仕事に就かれましたか?

愛澤さん:最初は医療事務ではなくて、インターネット通販の会社に就職しました。でも、社長の思っている仕事のスピードについていけず、社長と大喧嘩して辞めました(笑)。「辞めるってどういうことか分かってんのか?」と聞かれ「分かってます!辞めます」と泣きながら荷物をまとめてその日のうちに辞めてしまいました。今思うとほんと発達凸凹だなと思います(笑)。

―衝動的な決断が、ADHDっぽいですよね(笑)。潔いです。ちなみに発達凸凹が原因での仕事の困りごとはありましたか?

愛澤さん:仕事の手順もだし、パソコンのどこのフォルダに、何の資料が入っているのかがなかなか覚えられなくて。でも、覚えられないのも自分の性格だと思っていました。

あとは「あの時のあれ、どうなってる?」「あの商品どこに入ってる?」などの曖昧表現が分かりませんでした。

―曖昧な指示語が分かりにくいですよね。私もよく戸惑います。その後、勤務場所を変えながら約6年半医療事務を経験された中で、発達凸凹で困られたことはありましたか?

愛澤さん:病院の受付業務をしていた時、『患者さんの顔、名前、患者さんが口にした言葉』が口頭指示で飛び交っていました。頭が混乱して覚えられず、またどの患者さんの対応を優先すれば良いかが分からなかったです。職員も皆急いでいるし、決して書面では指示してもらえなかったですね。

後は、仕事が期日に間に合わなかったことですね。誰よりも先に取り組んでいるし、スケジュール帳はパンパンに書き込んでいるのに、なぜか自分が一番遅くまで残業していて、締め切りに間に合わない。涼しい顔で帰って行かれる社員の方を見ているのが辛かったです。

―そのご経験から、「こんな風に配慮してもらえたら嬉しかった」というアイディアはありますか?

愛澤さん:どこまで出来たかよりも、残りどれくらいかを確認して、どんなペース配分でやったら仕事が片付くのかを一緒に考えてもらえたらありがたかったなと今となっては思います。

―とても共感します。そう感じている方は多いと思います。身体を気遣って配慮してくれたことと、発達凸凹での困りごとの矛盾はありましたか?

愛澤さん:病院で勤務していた時、「大回りになるけれど、こっちにエレベーターありますよ、段差少ないですよ」と良かれと思って言ってくださったのですが、空間認識が弱いので、その遠い場所までたどりつけないことがよくありました。自分が立っている場所から、どの方角に進めばエレベーターに辿り着けるのか、教えてもらえたらありがたかったなと思いました。

また逆に、自分が居る場所からお手洗いは案内できるけど、患者さんの居る位置から説明をすることが難しかったこともあります。

身体障害を持っていることを配慮して、「身体的負担の少ない事務を任そう。そしたら完璧にこなせるだろう」と勤務先には思っていただいていたのですが、ケアレスミスが多いADHDの特性的に、そうでない場合もあると伝わったら嬉しいですね

愛澤さんから、今悩みの渦中にいる発達凸凹さんへ向けてのメッセージをいただきました!

愛澤さんから、今悩みの渦中にいる発達凸凹さんへ向けてのメッセージをいただきました!

■「受け入れたら楽になります!」

―今までのご経験を経て、発達凸凹で悩んでいる当事者に向けて何かメッセージがあればいただけますか?

愛澤さん:受け入れたら楽になります!「特性を受け入れられていないから、悩むんだよ」と周りから声をかけられて、それでも私は受け入れられなかったんです。だけど、受け入れた途端に精神的に楽になった自分がいるので、この言葉を届けたいなぁと思います。

 

愛澤さんのお話を聴く中で、特に仕事における苦悩について共感しました。文中で扱ったWAISに関しては、今後動画等を使ってLASSで詳しく説明する予定です!

後編では、愛澤さんの演技への想いをお届けします!

(文:yu-ka、撮影:naoya)